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メルヘン小窓

メルヘン小説【グリモン】の更新をメインに、ほのぼの書き綴っていきます。
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グリモン 火昇島編 66
「御影さま。これは確かに乱暴で厄介な者ですが、鬼ではございません」

いつもの高圧的な物言いではありません。けれども、それは確かに守衛でした。シャロウの前に立ちふさがり、御影と呼ばれた女の人の剣を、両方の手の平ではさむようにして止めています。

「なんじゃ、鬼ではないのか。つまらん」
「つまらんとおっしゃるなら、どうぞ本殿へお戻りを」

「あっちはもっとつまらん」

そう言うと、女の人は剣を下ろしました。そうして、剣をさっきまで持っていた鈴のついた短い棒に収めています。どうやら、その棒を引き抜くと剣になるようなのです。

女の人はチラリとシャロウに視線を向け、小首を傾げました。

「守衛、それはなんという奴じゃ?」
「はっ、外の者です。海に浮いているのを清太が見つけたようです」

「名はないのか?」
「いえ、シャロウと申しております」

「そうか。鬼と間違うたことを謝っておいてくれ」

とても奇妙なことに、御影と呼ばれた女の人はシャロウが目の前にいるというのに、謝っておいてくれと守衛に言うのです。

シャロウはようやく目が覚めたように、ゲフンとひとつ咳払いをしました。

「なんで俺に直接言わ――」

口を開いた途端、守衛の鋭い肘がシャロウの鳩尾を正確に突いてきました。おなかを押さえてしゃがみ込むシャロウを、守衛は仮面をつけていても分かるくらい苛々した様子で見下ろしました。

「声を出すな。山が穢れる」

守衛の言っていることの意味が、シャロウにはさっぱり分かりません。シャロウが再び口を開こうとすると、守衛が今度は指をまっすぐにした手で頭を叩きます。

「なんだよ、くそ!」
「だから声を出すなと言っている!」

苛々した守衛と、意味が分からず戸惑っているシャロウの姿はとても滑稽でした。女の人も思わずという風にフフッと笑い声を立てたくらいです。
 
| 大越サジ | グリモン 火昇島編 | 23:23 | comments(0) | - |
まとめページ
グリモンのまとめページを更新しました。火昇島編の65話までです。グリモンのまとめページへは→こちら。フレームいやんな方は→こちらで。よろしかったらどうぞー。

グリモンの火昇島編を書くと決めた時から、山の中で声が聞こえてくるというあのシーンを入れたいと思っていたのですが、ようやく書けてホッとしてます。

考えてみれば、火昇島編を書き始めてから久しぶりに人間の女の人が登場したような気がします。あれ……? というより、人間の女の人は初登場だったりします、か?

最初の祖母さまは物語導入のためのものですし。

そうかー。今回ようやく登場した女の人なので、今後はたっぷり活躍してもらわないといけないですね。かなり曲者的な雰囲気ありありですけれども(笑)

そして、チリリン、シャランという音は、実はグリモンの第2部で登場しています。えへ。よかったら探してみてください。


拍手ありがとうございます。とっても励みになってます!
 
| 大越サジ | 更新情報 | 23:27 | comments(0) | - |
グリモン 火昇島 65
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」

声は歌うようにシャロウを導きます。シャロウがふらりふらりとその声の方へ歩いていくと、木々の間から人の姿が見えました。手にたくさんの鈴がついた短い棒のようなものを持ち、それをチリリン、シャランと鳴らしているのです。

奇妙な光景でした。それもそのはずです。山の奥深いところで人が舞っているのですから。

普段のシャロウだったら厄介ごとを避けようとして、決して近付かないでしょう。けれども、その奇妙でどこか荘厳な姿からシャロウは目が放せません。

もっとよく見ようと、シャロウは木の間をふらりふらりとその人へ近付いていきました。

――と、その鈴を鳴らしている人の前に、シャロウでも見上げてしまうほどの鬼がいます!

鬼といってもグンとは違いました。顔つきはいかめしく、口の間からは牙がのぞき、タラリダラリと鈍く光るよだれをたらしています。唸るような声を出し、激しく威嚇しながらも、鈴の音に惹かれるようにヨタリヨタリと歩いていました。

チリリン、シャランと鈴の音を鳴らしている人は、長い髪を揺らし、少しも恐れた様子もなく鬼の前で踊っています。踊るたび、鈴がチリリン、シャランと不思議な音を立てているのです。

そして、鬼がヨタリとその人に大きな手を伸ばした瞬間のことです。

鬼はギャッという短い悲鳴を上げました。長い髪を揺らし、その人が突然、鬼に斬りかかったのです。どこからそんなものを取り出したのか、いつの間にか手には光る剣を持っています。剣はすらりと細く、シャロウの見たことのない形でした。

鬼はあっという間に地面に崩れ、そのまま起き上がってきませんでした。あっけに取られているシャロウを、その人が振り返りました。その途端、シャロウはびっくりして息が止まりそうになりました。

一撃で鬼を倒したのは、なんと、美しい女の人だったのです。

シャロウが驚いてその場に立ち尽くしていると、その女の人はニコリともせずに言いました。

「おや、こんなところにも鬼がおる」

言うが早いか、その女の人はシャロウにも斬りかかってきました。シャロウは鈴の音でぼんやりとしていたせいか、一歩も動けませんでした。このままではさっきの鬼と同じように斬られてしまいます。

そのとき、シャロウと女の人の間にスッと割って入ってきた黒い影がありました。
 
| 大越サジ | グリモン 火昇島編 | 23:04 | comments(0) | - |
グリモン 火昇島編 64
その声が聞こえた途端、守衛は走り出しました。ただ走るのではありません。守衛はちょっと走った後で木によじ登り、枝を伝って飛んでいくのです。梢がかすかに揺れるので、守衛の通った後はなんとか分かります。

シャロウはほとんど動物的ともいえる直感的な意思に従って、守衛の後を追いました。

走り出す前に黒い影たちが一瞬、シャロウの前に立ちふさがったのですが、守衛の声がそれを止めました。守衛は木の枝の上で振り返り、黒い影たちを一喝したのです。

「それよりも本殿へ行け!」

守衛に言われ、黒い影たちは瞬く間に方々に散っていきました。ただ、気取った魔法使いにふたりと、清太にひとり、黒い影が傍に立って坂を下りるように急き立てています。

なにか起こっているのは確かなのです。なにか、いつもとは違うことが。

シャロウは守衛の後を必死で追いました。守衛はまっすぐに山へと向かっていきます。山というのは清太の指差した山、鬼たちの住処だというあの山です。

木の枝の間を飛ぶように抜けていく守衛を追うのは、とっても骨の折れることでした。なにせリスを追うようなものです。シャロウは一生懸命に走りましたけれども、守衛の姿はもう見えません。

「くそっ、あいつには羽根でも生えてるのかよ!」

シャロウは焦りを抑えて、耳を澄ましました。木の枝を伝っていくのですから、梢の揺れる音がするはずです。左右の耳の後ろにそれぞれ右と左の手を添えて、どんな小さな音も聞き漏らすまいとしました。

そうやって耳を澄ましていると、どこからともなく、チリリン、シャラン、というような音が聞こえます。

とても不思議な音でした。音なのに、賑やかではなくどこか物悲しい響きを持っていて、耳の中にスルリと入ってきたかと思うと、なぜか胸の奥にまで達してしまうような感じがあるのです。

シャロウはその音に導かれるように、フラフラと進んでいきました。

しばらく進んでいくと、音と共に声が聞こえてきました。やわらかな声で、歌うように同じ言葉を繰り返しています。

「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」

意味は、シャロウには分かりません。けれども、歌うようなその声と、チリリン、シャランという音が一対になっているのは分かりました。
 
| 大越サジ | グリモン 火昇島編 | 22:32 | comments(0) | - |
グリモン 火昇島編 63
魔法使いとシャロウが団子状になって地面に転げ落ちる瞬間に、黒い影たちはパッと離れて散りました。

シャロウは腰を打ち付けて顔をしかめ、魔法使いは自慢の帽子の羽根が折れてしまって目を吊り上げています。

「よくもやってくれましたね!」

魔法使いは黒い影たちに向かって両手の指を広げました。その指の先から白い糸が飛び出し、まるで蜘蛛の糸のように黒い影たちに巻きつきます。脚にも腕にも、首にまで。

黒い影たちはみんな守衛と同じ不思議な仮面をつけていて、表情は分かりません。

けれども、黒い影たちが少しも苦しがっていないのは分かります。魔法使いはムキになって糸に魔法で火を走らせてみたり、石のように硬くしてみたりしますけれど、黒い影たちにはちっとも利いていません。

最後の手段という風に、魔法使いは黒い影たちを動物にする呪文を唱えました。ところが、そうです、黒い影たちの姿はちっとも変わりません。

そしてとうとう、魔法使いは黒い影たちに捕らわれてしまいました。

「どうして……」

呪文を唱えているのに魔法がかからないのか。魔法使いの言葉を引き取るように、シャロウが続きを言いました。

「こいつには魔法とか魔術の類がかからない」

シャロウは隣の守衛をアゴで示しました。守衛と同じ格好をしている黒い影たちも、守衛と同じ体質をしているのではないかと思ったのです。そして守衛も頷きました。

「我らは守衛。この森を守るための存在。お前がどんな呪文を唱えようと、無駄なことだ」

分かったなら引き返せ――守衛はいつもと同じ高圧的な口調で言いました。

気取った魔法使いは、グンに檻を壊された時と同じように頬を引きつらせ、どこか青ざめた顔で守衛を睨んでいます。その瞳にはなにかがメラメラと燃えていて、まだなにか企んでいそうな気配がありました。

ちょうど、その瞬間のことです。

山の方からとても大きな声が聞こえました。人の声ではありません。獣が興奮して立てる唸りを含んだ、盛んに吼えたてるような声です。
 
| 大越サジ | グリモン 火昇島編 | 23:59 | comments(0) | - |
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