「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」
声は歌うようにシャロウを導きます。シャロウがふらりふらりとその声の方へ歩いていくと、木々の間から人の姿が見えました。手にたくさんの鈴がついた短い棒のようなものを持ち、それをチリリン、シャランと鳴らしているのです。
奇妙な光景でした。それもそのはずです。山の奥深いところで人が舞っているのですから。
普段のシャロウだったら厄介ごとを避けようとして、決して近付かないでしょう。けれども、その奇妙でどこか荘厳な姿からシャロウは目が放せません。
もっとよく見ようと、シャロウは木の間をふらりふらりとその人へ近付いていきました。
――と、その鈴を鳴らしている人の前に、シャロウでも見上げてしまうほどの鬼がいます!
鬼といってもグンとは違いました。顔つきはいかめしく、口の間からは牙がのぞき、タラリダラリと鈍く光るよだれをたらしています。唸るような声を出し、激しく威嚇しながらも、鈴の音に惹かれるようにヨタリヨタリと歩いていました。
チリリン、シャランと鈴の音を鳴らしている人は、長い髪を揺らし、少しも恐れた様子もなく鬼の前で踊っています。踊るたび、鈴がチリリン、シャランと不思議な音を立てているのです。
そして、鬼がヨタリとその人に大きな手を伸ばした瞬間のことです。
鬼はギャッという短い悲鳴を上げました。長い髪を揺らし、その人が突然、鬼に斬りかかったのです。どこからそんなものを取り出したのか、いつの間にか手には光る剣を持っています。剣はすらりと細く、シャロウの見たことのない形でした。
鬼はあっという間に地面に崩れ、そのまま起き上がってきませんでした。あっけに取られているシャロウを、その人が振り返りました。その途端、シャロウはびっくりして息が止まりそうになりました。
一撃で鬼を倒したのは、なんと、美しい女の人だったのです。
シャロウが驚いてその場に立ち尽くしていると、その女の人はニコリともせずに言いました。
「おや、こんなところにも鬼がおる」
言うが早いか、その女の人はシャロウにも斬りかかってきました。シャロウは鈴の音でぼんやりとしていたせいか、一歩も動けませんでした。このままではさっきの鬼と同じように斬られてしまいます。
そのとき、シャロウと女の人の間にスッと割って入ってきた黒い影がありました。